文=丸山素行 写真=野口岳彦

A東京の作戦が的中、エアーズの逆転弾で決着は第3戦へ

チャンピオンシップのセミファイナル、川崎ブレイブサンダースvsアルバルク東京。第3戦までもつれた激闘を制したのは川崎だった。

第2戦は前半を終えて28-27と稀に見るロースコアの展開。わずかながらリードしたのはA東京だったが、伊藤拓摩ヘッドコーチにとってこれは想定とは異なる展開だった。「今日は100点取ろうという話をしたんですね。昨日のディフェンスを見て3ポイントシュートをかなり打たせてくれていたので、打って決められると思いました。もうちょっとハイスコアにしたかったです」

後半になるとこれまでとは打って変わり激しい打ち合いに。リードチェンジすること10回、同点の場面が10回と、まさに一進一退。それでも終盤はA東京が川崎を追いかける展開が続く。第4クォーター残り23秒、ディアンテ・ギャレットが勝利の望みをつなぐ3ポイントシュートを沈めて77-75と詰め寄り、ニック・ファジーカスにファウルゲームを仕掛ける。

ファジーカスはレギュラーシーズン通算のフリースロー成功率が81.5%、この試合も9本中8本の高確率で決めていたが、リーグ最強の点取り屋の手元をプレッシャーが狂わせ、まさかの2本ともミス──。

リバウンドを確保したA東京はタイムアウトを取り、逆転へのオフェンスを模索した。残り23秒で2点差、3ポイントシュートに固執しなくてもいい場面だが、それでもA東京は逆転を狙った。ここでの狙いを伊藤ヘッドコーチはこう説明する。「川崎のディフェンスはディアンテがドライブすると寄ってくるので、(田中)大貴かジェフ(エアーズ)のどっちかだと。ジェフは3ポイントを高確率で決められる選手で、クラッチなので必ず決めてくれると思ってました」

その狙いは見事に的中した。仕掛ける雰囲気を見せるギャレットにエアーズのマークが引き寄せられ、オープンでパスを受けたエアーズが狙いすませた3ポイントシュートを沈める。残り12秒で再逆転を狙う川崎だが、辻直人のシュートは短く、78-77でA東京が勝利。前後半5分の第3戦で決着をつけることになった。

失敗から切り替えたファジーカス、鬼気迫るプレー

『未体験ゾーン』の第3戦。両ヘッドコーチはともに特別な指示を送りはしなかった。

北卓也ヘッドコーチは「まずは休めという話をして、その15分でチームミーティングは行っていません。ミーティングしたのは3分前ですね。もう切り替えろしか言わなかったです。これは延長戦じゃない。感覚として僕らも延長戦みたいになってたんですけどもう切り替えろと。それしか言ってないです」

伊藤ヘッドコーチは「ルールの確認をしました。5分なので、一つのオフェンス、一つのディフェンスがどれだけ大事になってくるかと。我々だったらトランジションでプッシュしたいんですけど、それができなかった時に何をコールするかが大事なので、それは指示しました。あまり選手に考えさせたくなかったです」

こうして始まった第3戦、「勝負が懸かった場面で責任を持ってシュートを打ちたい」と言っていた田中大貴の連続得点で勢いに乗ったA東京が、11-8とリードして前半を終える。ただ、ここからが前年のNBL王者川崎の本領発揮だった。北ヘッドコーチは言う。「ここからどう巻き返せばいいのかを考えていましたが、私が考えることなく選手たちが落ち着いてやってくれたことが一番だったと思います」

後半の5分間で18得点。ファジーカスとライアン・スパングラーが8得点ずつを重ねた。いつも淡々と得点を重ねるファジーカスだが、今回ばかりは気合いが違った。「勝負どころでフリースロー2本外してチームに迷惑かけて落ち込んでいたが、そのことを忘れて切り替えてチームを引っ張っていくという気持ちで戦った」とファジーカスは言う。

終盤、A東京にとっては第2戦のラストでの逆転劇のイメージがマイナスに作用した。早打ちでポゼッションを明け渡し、川崎は恐るべき高確率で得点を重ねていった。ギャレットの3ポイントシュートで追いすがるも、残り34秒、スパングラーがオフェンスリバウンドを押し込んだ得点が決定打に。結果、26-18で川崎が第3戦を制した。

「たまたまシュートが入って、たまたまシュートが落ちた」

北コーチは勝因をこう語る。「勝負どころでの一つのミスが勝敗にかかわってくるということですね。2試合目は残念ながらウチのミスが多くて勝利が東京さんへ行ってしまった。逆に3試合目の最後の方はウチが精度の高いプレーをして勝利をつかんだという結果だと思います」

戦術面でのポイントとしては、第3戦でギャレットのマークに付いた長谷川技のディフェンスを挙げた。「ギャレットのマッチアップを長谷川に変えました。(篠山)竜青だとそこを狙われますが、長谷川だとヘルプにいかなくていい。長谷川のギャレットに対するディフェンスです」

一つのプレー、一つのミスが勝敗を分けたという認識はA東京の伊藤ヘッドコーチも同じ。「何が足りなかったというのは難しいですね。5分のハーフは誰も経験がないですし、あの5分で劣ったとは思っていません。なので1戦目負けて、2戦目勝って、3戦目も負けましたけど、劣っていたという感じではないです。たまたまシュートが入って、たまたまシュートが落ちた、そのように思ってます」

それでも、負けを認めないわけではない。伊藤ヘッドコーチはファイナリストになった川崎を次のような言葉で称えている。「第2戦から第3戦の流れで、勢いがこっちなのに心が折れず集中力も切らさず、彼らが得意なことをやりきった。本当に素晴らしかったと思います」

川崎のキャプテン、篠山は熱戦をこう振り返る。「第2戦の負け方というのはニックがフリースロー外してしまって逆転されて、最後も辻がいい形でのミドルシュートを外してしまってという負け方だったので、アルバルクさんが強くて適わなかったという負け方ではなくて、ウチのプレーをしてウチのシュートが外れてしまったから負けた、という負け方でした。なので、しっかりと10分間、自分たちのプレーをすれば第3戦をモノにできるっていう自信はあったので、序盤は少しリードされましたけど、自信を揺らがすことなく付いていけたと思います」

これで川崎はファイナル進出が決定。栃木ブレックスとシーホース三河の勝者と対戦することになる。北ヘッドコーチは言う。「対戦相手はまだ決まっていませんが、コンディション整えて対戦相手の対策をして準備をするだけです。あと1試合でBリーグ初代チャンピオンが決まりますので、本当に良い準備をして臨むだけです」

勝率1位を長くキープしてきた川崎だが、楽な道のりではなかった。ケガ人が相次ぐ状況の中でも勝利にこだわった戦いを続ける中で、チーム全体が大きくレベルアップしてきたという確たる手応えを北ヘッドコーチは「ニックと辻の2枚看板だったのがチームの総合力に変わったというところ」という言葉で表現する。自信を持ってファイナルに臨む。