文=大島和人 写真=B.LEAGUE

「B1に上がって初めて『Bリーグで戦っている』」

西宮ストークスにとってはB1への昇格であり、2年ぶりの『1部復帰』だ。クラブはNBLの2015-16シーズンから西宮市立中央体育館をホームアリーナに定めて、チーム名も「兵庫」から「西宮」に改めた。今季は2部に振り分けられ、Bリーグの初年度に臨んでいた。

梁川禎浩はNBL初年度(13-14シーズン)からこのチームでプレーする31歳だが、彼はこんなことを口にする。「Bリーグができて何か変わりましたかという質問をよく受けるけれど、B2にいる限りはあまり感じない。B1に上がって初めて『Bリーグで戦っている』、『変わった』という実感を持てるのかなと思う」

観客数を見るとB1の18チームは総数で合計約50%、1試合平均も約30%という大幅な増加を達成した。しかしB2はせいぜい微増で、メディアの取り上げられ方にも明らかな格差がある。昨季は12チーム中11位といえどもトップリーグで戦っていた彼らにとって、昇格は『最低限の目標』だった。

一方で16-17シーズンが順風満帆なものだったわけではない。チームの指揮を執る天日謙作コーチ(ライセンスの問題で肩書きはアシスタントコーチ)もこう振り返る。「やっているうちに『行けるかな』と思ったこともあれば、(2月に)茨城に負けた時なんかは『FE名古屋に追い付かれへんかな』と思った。山あり谷ありの中でやってきた」

天日コーチが特に苦しかったと振り返るのは2月から3月にかけての時期。チームはちょうど交流戦を戦っており、まず2月11日と12日の広島ドラゴンフライズ戦に連敗。2月24日と25日の茨城ロボッツ戦も、当時は不調だった相手に1勝1敗と取りこぼした。3月11日と12日の群馬クレインサンダーズ戦も1勝1敗で終え、中地区のライバル、Fイーグルス名古屋との差が開いた。しかし18日と19日のFE名古屋戦に連勝したことで、チームは首位と1ゲーム差に浮上した。

その後、FE名古屋の負けが込んだこともあり西宮は首位に浮上。4月29日と30日にアウェーで戦ったFE名古屋との連戦も1勝1敗で乗り越え、西宮は1勝差で中地区チャンピオンに輝いた。

「大きい選手がいなかったし、もともといた選手は抜けていった。アクが付いてないからやりやすかったけど、タレントが揃っているかと言ったらクエスチョンだった。ただ彼らが上手くなろうと、チームコンセプトをよく理解して取り組んでくれた。その結果だと思います」と天日コーチは言う。

来シーズンも「基本この路線、アップテンポでやりたい」

5月11日のプレーオフ準決勝初戦は平日ということもあり、950人とやや寂しい入りだった。しかし12日の第2戦は1702名が来場。ホーム西宮市立中央体育館は立ち見も出る盛況で、熱を持ってチームを後押ししていた。西宮が群馬クレインサンダーズに危なげなく連勝して、B1昇格と『1部復帰』をつかみ取った。

もちろんB1で戦うためには、まだ課題も多い。例えば今季のホーム平均入場者数は1061名。このままならおそらくB1で最も『入らないクラブ』になってしまう。

今期の予算も福島潤社長によると「2億4000万円くらい。千葉さんとかA東京さんの4分の1とか、5分の1くらい」という水準。B1の運営規模は平均でも今季が7億円ほどで、まず経営体力に大きな差がある。

一方で福島社長はこう述べる。「市民球団ですので、そんな予算を上げるつもりはない。我々はみんなで戦うチームですから、そんなにビッグネームを取るつもりもない」

もちろん外国籍選手の補強も含めたサイズアップという明白な課題もあるが、基本的には今季のB2で積み上げたものを生かした『継続』が来季の方針になる。天日コーチも「基本この路線。スローな選手を僕はあまり使いたくないし、アップテンポでやりたい」と口にする。

福島社長「常に満席という状態をこの数年で築き上げたい」

一方で試合、チアリーダーのパフォーマンスに対する観客の『熱』が伴ってきていることは現場に行って感じた部分だ。ビジョンや照明、椅子といった施設面は『よくある自治体の体育館』だし、同じ西宮市の阪神甲子園球場に比べれば盛り上がりの次元が違う。とはいえ昇格という弾みを得た西宮が、ファンの心をつかんだ千葉や栃木、秋田といった成功例を短期間で再現する可能性は当然ある。

福島社長は手応えを口にする。「シーズン当初に比べてかなりファンが増えた実感はある。バスケットを見たことない方も含めて、チアリーダーも含めた我々の演出とか、試合内容を見て『すごく面白い』、『ハマった』と言ってくださる方が非常に多い」

現状を見るとホームアリーナの西宮市立中央体育館は築52年の施設。キャパシティもB1基準の5000人を大きく下回っている。これについては現体育館のすぐ隣に2022年、もしくは23年を目処に新アリーナが建つ見込みだ。

社長は言う。「常に満席という状態をこの数年で築き上げたい。この2、3年で3000人がパンパンに入る状態にはしたい。22年か23年に新アリーナができた時にはきっちり5000人が入るチームを目指す」

近畿を見回せば大阪エヴェッサ、京都ハンナリーズ、滋賀レイクスターズがあり、奈良にもB2のバンビシャス奈良がある。西宮はそんな激戦区にあって、どれだけ地域に根付き、クラブの色を出すかという『コート外の勝負』にも結果を出さねばならない。

ともあれ、昇格はそんなもう一つの戦い後押しにもなるはずだ。2017年5月12日、西宮はB1昇格という大きな一歩を踏み出した。