文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

インサイドでアドバンテージを生み出した個人技

三遠ネオフェニックスは昨日行われた横浜ビー・コルセアーズとの試合に勝ち、中地区2位の座をキープした。前半を終えた時点で31-28と決して楽な試合展開ではなかったが、勝利を引き寄せるきっかけを作ったのが太田敦也の個の力だった。

多彩なスピンムーブでファイ・パプ月瑠を完全に振り切り、第3クォーター開始から3連続ゴールを挙げた。そのキレのある動きについて質問すると、「後半からですけどね」と照れ笑いを浮かべるのが太田らしい。

彼が話したのは後半の活躍よりも前半の反省だった。「とりあえず顔にいろいろ当たって、今は歯がグラグラしてます。川村(卓也)にブロックを食らうわで、自分でイライラして前半はずっと頭にきてました。それであまりプレーは良くなかったです」

それでも「ロッカーに戻ってから思い直して、後半はうまく切り替えられました」と言うように、冷静さを取り戻した太田の個人技が横浜を攻略するきっかけに。そして、インサイドで得点を重ねたことで、三遠の理想とする展開が生まれた。

「基本は1対1というより合わせからなので、そこでうまく点取りながら気を散らせました。中と外を絞れなくなって、という状況にさせたと思っています」

理想的なインサイドアウトの形が出来上がった三遠は、懐の深い安定感のあるバスケットで横浜に反撃を許さなかった。

「チームバスケの破壊力は僕らが一番」という自信

藤田弘輝ヘッドコーチが「絶対に持っておくべきカード」と言うように、三遠は試合終盤に太田、ジョシュ・チルドレス、ロバート・ドジャーの3ビッグマンのラインナップを用いた。「初めてってわけでもないですし、チル(チルドレス)が来たばかりの時よりは違和感もないです。いろんなところでミスマッチが出るので、無理矢理ではなく流れの中でうまく突いていけるとすごく良いです」と、チャンピオンシップに向けた手応えは上々のようだ。

チャンピオンシップのレギュレーションは、1勝1敗となった場合に『5分前後半の3試合目』を当日に実施するという、旧bjリーグ方式が採用されている。上位を独占する旧NBLのチームが強敵であることに変わりはないが、bjリーグで8年間活躍してきた太田の経験はプラスに作用される。「やったやってないの経験値では僕らのほうが上。最悪、5分2回のゲームに持ち込んで食らい付いていきたい」

太田はbjリーグで2009、2010年シーズンに連覇を達成している。もう一度チャンピオンリングが欲しいかとの記者の質問に対して、「いくらでも欲しいですよ、全部欲しいです」と強欲ぶりを見せた。

ただその発言は「bjの時に足元をすくわれるところも見てきたので」と、優勝の難しさを知るからこその言葉でもある。それと同時に、チームの手応えには自信を持っている。「僕らは誰に聞いてもチームバスケって言うと思うんですけど、それが本当にできた時の破壊力は多分一番すごい」

『縁の下』から飛び出す太田のパフォーマンスに期待

最終節は富山グラウジーズとの対戦が待ち受ける。残留プレーオフ参戦が濃厚となっているチームだが、旧bjの視点からすれば昨シーズンの準優勝チームであり、油断のできない相手だ。「富山戦を良い形で終わらせて弾みを付けていきたい」と、太田は先を見据えながらも慢心はない。

「自分の得点がゼロでも、なんならリバウンドがゼロでも、チームがうまく回って勝つなら全然気にしません。むしろそれで良いです」。日頃からそう語るように『縁の下の力持ち』を自認する太田だが、Bリーグ初代王者という目標を達成するためには何でもする覚悟がある。それはもしかすると、華やかなチルドレスよりも前に出るぐらいの勢いで『主役』を演じることかもしれない。 

9月下旬に始まった長いシーズンも最終局面を迎えた。『縁の下』から飛び出した太田がどんなプレーを見せてくれるのか、楽しみでならない。