文・写真=鈴木栄一

五輪の達成感がある中で、モチベーションに苦しんだ1年

今シーズンも女王JX-ENEOSを圧倒的なカリスマ性とリーダーシップで統率し、シーズン無敗でのリーグ9連覇に導いた吉田亜沙美。今季もいつものようにクォリティの高いプレーを披露し、日本バスケ界最高の司令塔であることを証明したが、その一方でメンタル面においては厳しい1年であった。

2006-07シーズンのWJBLデビューから個人、チームとして数多くの栄光をつかみ、昨夏には大きな目標としていたオリンピックに出場。リオの舞台で世界から称賛される活躍を披露した。それだけに、吉田にとってはどのようにモチベーションを高めていけばいいのか難しいシーズンであった。

「オリンピックに出るのが夢で、そこに気持ち、プレーのピークで持っていきました。達成感、満足感がある中で大会が終わり、リーグが始まる時はモチベーションに不安がありました。開幕しても少し気持ちが上がっていなかった部分はありましたし、オールジャパンで優勝した後も、自分の目標、夢を探しながらのシーズンでした。」

こう語る吉田だが、そんな彼女にとって今シーズンを戦う上での大きなモチベーションとなったのは、今季からヘッドコーチに昇格したトム・ホーバスの目指すバスケットボールを表現したいという思いだ。

「モチベーションに関しては本当に難しかったですが、『トムのために』と切り替えた時、それが私のモチベーションになりました。『トムのために優勝したい』となった後は気持ちがブレることもなく、強い気持ちでできたと思います」

これからも強くなることがトムに対して返せる部分

しかし、だからこそシーズン途中、ホーバスの女子日本代表新ヘッドコーチ就任が発表され、今季限りでチームを離れることが明らかになった時にはチーム全体に少ながらず動揺はあった。だが、指揮官との強い絆と大きな信頼によって、吉田そしてチーム全体がこの出来事を乗り越え、無敗優勝へとつながったのだ。

「自分たちがより強くなっている実感を持っていて、これからもっと楽しくなるというところで退任が伝えられたので、みんな動揺したかと思います。ただ、そこで『最高の形で終えたい』というモチベーションに持っていけたので優勝できました。トムのバスケットボールに対する熱さはみんなに伝わったと思いますし、もういなくなってしまいますが、今年経験したものを継続してこれからどんどん強くなっていくことが、トムに対して私たちが返せる部分だと思います」

また、モチベーション以外の部分でも、シューティングに苦しんだシーズンだったと振り返る。「シュートの感覚がずっとおかしくて、感覚がつかめない。強さの配分、アーチのかけかたでずっと悩みながらシューティングをしてきました」。ただ、開き直って打てばいいというコーチ陣からの助言に従い、シュートタッチが悪い時でも打てると思ったタイミングで打ち続けた。その結果、ファイナルでは要所でしっかりとシュートを決めたのは、さすがの勝負強さという他にない。

今回のファイナルに関して印象的だったのは、JX-ENEOSの層の厚さ。吉田、渡嘉敷来夢、間宮佑圭、宮澤夕貴という日本代表メンバーだけでなく、宮崎早織、石原愛子、藤岡麻菜美らベンチメンバーの躍動も大きな勝因となった。吉田も彼女たちの奮闘も称えている。

「それぞれが苦しんでいる姿を見てきました。石原は今季から加入し、JXのバスケットについていくのが必死で、宮崎は宮崎で経験はしていたと思いますが苦しんだこともありました。そういった選手たちが活躍して優勝を勝ち取ったことはうれしいです。若手がどんどん成長してくれるのは心強いです。藤岡も東京五輪で主力としてポイントガードを任せられるくらいの成長をしなければいけないと思うので、もっともっと頑張ってほしいです」

最後に「次の目標はまた、いろいろ考えてきめたいと思います」と締めくくった吉田。日本バスケ界において孤高の領域に達している彼女が、来シーズンは何をモチベーションにしてコートに立つのか。今から興味深い。