佐古賢一の『バスケット談義』vol.10~バスケットは展開のスポーツ、私のバスケット観を180度変えた現役時代の出来事

2017/03/02
Bリーグ&国内
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文=岩野健次郎 写真=高村初美

華々しいスタートを切ったBリーグにあって、2部リーグである「B2」はやや注目度が落ちるが、それでもB1所属クラブに劣らぬ実力を備えた強豪も存在する。その一つが広島ドラゴンフライズだ。初年度のB1昇格を虎視眈々と狙うチームを率いる「Mr.バスケットボール」こと佐古賢一ヘッドコーチに、チームの状況やバスケ界の話を聞く。

PROFILE 佐古賢一(さこ・けんいち)
1970年7月17日生まれ、神奈川県出身のバスケットボール指導者。中央大学3年次に日本代表入り。卒業後はいすゞ自動車リンクスに入団し、2002年にはアイシンシーホースに移籍して「プロ宣言」をした。ずば抜けた技術と勝負強さで数々のタイトルを獲得し、2011年に現役引退。広島の初代ヘッドコーチとして2014年から指揮を執っている。

島根スサノオマジック、広島ドラゴンフライズ、熊本ヴォルターズの激戦が続くB2西地区。広島ドラゴンフライズは先週、東地区で首位争いを演じる群馬クレインサンダーズに延長で痛い1敗を喫し、ホームで行われた東京アースフレンズZ戦で巻き返しを図るも、2月24日は64-84で完敗。実に4カ月ぶりのホームでの黒星を喫し、ホームでの連勝は15でストップした。
西地区の首位争いから一歩後退するダメージの大きい連敗だったが、翌日はしっかりと立ち直り、前日とは反対の展開で85-66と快勝した。これで通算成績は32勝8敗。首位の島根を2ゲーム差で追う形となる。
先日、広島は来シーズンに向けB1クラブライセンスの交付を受けた。あとはコートで勝利を重ね、昇格の切符を手に入れるだけ。シーズンも佳境を迎え、一つひとつの試合の重みが増す中、佐古賢一ヘッドコーチに話を聞いた。

選手が自発的に何ができるのかを見極めていく

──アースフレンズ東京Zとの第1戦では痛い敗戦を喫しました。試合を振り返っていただけますか。

完敗ですね。選手のモチベーションをしっかりと試合にフォーカスさせることができなかった。それは私の責任です。第2クォーターに『受け』に回ってしまい、第3クォーターでディフェンスの意識を持たせようとしましたが、空回りしてしまいました。原因は試合前の一週間で良い準備ができなかったからで、すべては私の責任です。

──ゲームで主導権を握れなかったのはなぜでしょう?

戦術的な問題ではないと思います。バスケットは『展開のスポーツ』なので、良い展開を作らなければいけなかったんだけど、ミスが多すぎました。また、リバウンドでは1本目を取れなかった時に、チームで厚みを持って2本目、3本目と取りに行かなければいけないところで、それができせんでした。

──悔しい連敗ということでチームのムードはどうでしたか?

率直なところ良くなかったです。しかし、我々は結果を真摯に受け止めなければいけません。前回の群馬戦での負けを自分たちの中で認められていないから、危機感のない一週間となってしまいました。

チームとしては確かに危機的な状況です。ただ、これを仕事としている以上、我々には責任があります。選手には「ため息をつくな、明日があるんだから」と話しました。多くを語りませんでしたが、選手もそこは自覚していたと思います。

こういった状況で、指導者として一番やってはいけないのが『押し付けること』です。細かい戦術を選手に伝えることだけにコーチがフォーカスすると、チームがブレてしまいます。選手が自発的に何ができるのかを見極めていくことが重要で、そこで一番大事なのは『声』を発することでしょう。コミュニケーションなくして、チーム内での意思疎通や士気高揚はありません。

大事なのは目の前の試合を一つひとつ戦っていくこと

──プレーオフに向けては「取りこぼしをしないようにすることが大事」と話していましたが、この1敗はどれぐらいダメージがあるものなのでしょうか?

正直なところ、シーズンが終わってみないと分かりません。我々にとって大事なのは目の前の試合を一つひとつ戦っていくことです。

一般的に、チームというものはシーズン中盤がどうしても中だるみしてしまうものですが、この悪い流れを早く止めて脱出しなければいけない。ディフェンスにしてもオフェンスにしても粘りがなかった。エナジーが足りていなかったと痛感しています。

──反対に翌日の第2戦は、前日とは打って変わり85-66と快勝しました。

出だしから選手がコート上で気持ちを表現できていました。前日の敗戦からうまく気持ちを切り替え、ディフェンスなど若干の修正点もありましたが、相手のプレッシャーに屈せず良いパフォーマンスができたと思います。前半、相手に走らせることを許さず、良いタッチでシュートを打たせなかったので、そこが良かったと思います。

──前日の敗戦から気持ちを切り替えられたことが勝因かと思いますが、具体的に何か選手に指示したことはありますか?

アウェーの群馬戦では追い付いて延長戦に持ち込んだけれど負けてしまいました。この試合と同様に集中力が途切れてしまったことが第1戦の最大の敗因です。これはメンタル的な課題なので、ゲーム終盤で集中力を途切れさせず、しっかりとフォーカスするよう選手に話しました。

段々とプレーオフが近づいてくるので、毎週のコンディションやモチベーションといったところをしっかりと保つことが大事になってきます。土曜日の敗戦については、シーズン終盤ではなく中盤で悪いことが出たので、まだ良かったのではないかと感じています。

頭を使いながら臨機応変にプレーすることが必要

──佐古さんは「バスケットは展開のスポーツ」だと口癖のようにおっしゃいます。ご自身の経験から、これがどういうことか教えていただけますか?

大学を卒業した後、私はいすゞ自動車のメインのポイントガードとして試合に出ていました。そこでは試合に勝つために私の得点力も期待されていました。いすゞの休部に伴い、アイシンに移籍することになったのですが、移籍した最初のシーズンでしょうか、トヨタ自動車と対戦したんです。

その試合では私自身の得点は0だったのに、チームは20点ほどの大差で勝ったんです。「いったいこれは何だ!?」、「バスケットってこんな勝ち方もあるのか!!」と思いました。私にとってはこれまでのバスケット観を180度変えてしまうぐらいの試合でした。ポイントガードが自分で得点しなくても『展開』を作り出すことで、チームはこんなに楽に勝てるんだ、とね。

それからバスケットに対する考え方が変わりました。ゲームの流れを見ながら押すところは押す、引くところは引く。遊びの時間帯があってもいい、でも締めるところはギュッと締める。ポイントガードである自分が得点しなくても指揮者のようにゲームを作り出す……。

この時間帯は何が重要で、何をチームメートに伝えてチームをコントロールしなければいけないのか。40分間の中での『展開』を考えてプレーするようになりました。

そのためにはコート上でのコミュニケーションがとても大事だし、チームメートと話をして頭を使いながら臨機応変にプレーする。勝つためにはそれが必要だと強く認識するようになりました。

もちろんコーチ陣からの戦術や指示を頭に入れてプレーをしますが、刻々と状況が変わるコート上では、チームメートと意思疎通を図りながら、それらの指示を状況にアジャストさせてプレーすることが時には必要なのです。