文・写真=小永吉陽子

『特別指定選手』ではなく、あえて『ワークアウト』を選択

今、大学生で一番注目を集めているのが、筑波大の3年の馬場雄大と杉浦佑成だ。ともに強靭な身体を生かして、馬場は走力とリバウンド、杉浦はインサイドプレーやジャンプシュートを得意とし、U-16、U-18、ユニバーシアードと世代別の代表に選出されてきた。揃って筑波大に入学してからはインカレ3連覇の中心となっている。

注目の一人である杉浦佑成はオールジャパン後にBリーグの特別指定選手としてサンロッカーズ渋谷への入団が決まり、大学3年でプロの舞台を経験する道を選んだ。ではもう一人の注目選手、馬場雄大はどうするのだろうか。

その話をする前に、日本代表の重点強化選手に選出され、12月の強化合宿に参加した時の話を紹介したい。馬場と杉浦は顔を見合わせながらこんな感想を口にしていた。

「シーズン中ということもあるのか、Bリーグの選手はおとなしく見えました。もっとガツガツやってくると思ったので、そこは少し物足りなかったです。でも僕ら大学生はBリーグの選手が当たり前にできるプレーができなくて、そういう巧さは全然足りませんでした」

大学生の2人は、日本代表の合宿でもオールジャパンにおいても、『意欲』に関してはプロ選手たちにも負けないという自負があった。しかし、善戦しながらも74-86で敗れたオールジャパンのアルバルク東京戦において、筑波大のエースである馬場は「大事な場面で決める力が自分にはなかった」と自身が挙げた17得点に満足できず、悔し涙を流している。代表合宿でもオールジャパンでも、壁として立ちはだかったのは1対1で打開できる個人技術の未熟さだった。

馬場の身体能力の高さは誰もが認めるところだ。コートの端から端までをトップスピードで走ってダンクを決める195cmの『スラッシャー』ぶりは抜群の破壊力を持つ。大学入学後は吉田健司監督指導の下、外角シュートやパス、ボール運びに取り組み、自身が希望する『大型ポイントガード』への可能性を見せている。

だが、可能性だけでは務まらないのがポイントガードというポジションだ。馬場が司令塔になる上で欠けているのは、自身が自覚している1対1の力に加え、ボールハンドラーとして試合の状況を把握する判断力だ。12月の代表合宿ではテクニカルアドバイザーとしてチームの指揮を執るルカ・パヴィチェヴィッチから「まだ本能だけでプレーしているし、その場の状況を考えずに雰囲気でパスを出している。一つひとつのプレーに責任を持て」と指摘された。

そうした厳しい指摘を受けたパヴィチェヴィッチコーチとの面談において「海外に挑戦したい」という希望を馬場が伝えると、大学のオフシーズンを利用したスキル向上のワークアウトを提案された。かくして、21歳の若者は次なる段階に進むために、パヴィチェヴィッチコーチと佐藤晃一スポーツパフォーマンスコーチの下で個人ワークアウト(トレーニング)を行うことになったのだ。

高い強度で行われるワークアウトは、海外挑戦への準備

現在の日本代表候補30名の中でオフシーズンなのは大学生の馬場だけ。よって時間はたっぷりある。パヴィチェヴィッチコーチと、NBAのティンバーウルブズで選手のパフォーマンスを監督する職に就いていた佐藤晃一の『強力タッグ』による個人レッスンは、願ってもみないチャンスだった。

「僕の目標は東京オリンピックに出ることとNBAでプレーすること。今の僕には個の強化が必要だと感じているので、Bリーグの特別指定よりもこっちを選びました」と本人が語るその選択は十分に理解できる。

ワークアウトの期間はオールジャパン終了後の1月11日から筑波大の練習再開前日となる2月2日までだが、春休みにもパヴィチェヴィッチコーチが携わる大学生対象のキャンプが行われるため、馬場個人のことでいえば、継続的な指導は続くことになるだろう。現在、真っ最中であるワークアウトの内容は、時間にして5~6時間、一日3部練習で構成され、その内容は「強度があまりにも高い」と馬場が悲鳴を上げる内容になっている。

午前中に佐藤コーチに身体の使い方を教わりながらトレーニングを行い、その後は2回に分けてパヴィチェヴィッチコーチの技術指導がある。ピック&ロールからの様々な攻め方、多彩なバリエーションのシュートを教わっては反復練習を行う。シュートは一日に1000本を超える打ち込みをしている。また勉強になるのは、自身も大型ポイントガードだったパヴィチェヴィッチコーチから、試合映像を見ながらポイントガードとしての考え方を伝授されていることだ。

あまりの強度の高さに太ももに軽い肉離れを起こし、1月の日本代表の合宿を見学することになったが、幸い数日の休養で練習に復帰できた。「ここで学んだ技術を、試合でトライすることで成長していきたい」と前向きに取り組んでいる。

海外挑戦の進路は検討中。まずはイラン戦に選ばれること

個人ワークアウトに取り組んだ後は、大学でのラストシーズンが始まる。海外挑戦を希望しているというが、どのようなルートで日本から飛び立とうとしているのだろうか。

まだ具体的には何も決定していないが、いくつかの選択肢を吉田監督とともに検討している段階だという。本人いわく「海外といってもプロリーグではなく、当面はNBAのサマーリーグに出ることが目標です。そのために大学4年の途中で別の道に進むこともあるかもしれないし、どういう方法があるのかを探っています」と話す。

そんな中でやはり気になるのは、U-18代表としてともに戦った一つ上の渡邊雄太(ジョージ・ワシントン大)や、富山市奥田中の2年後輩である八村塁(ゴンザガ大)といったNCAAのコートに立つ同世代の存在だ。

「アメリカでプレーする2人には刺激を受けまくっています。でも僕は日本の大学を選んだことを後悔していません。雄太さんには雄太さんの、塁には塁の道がある。僕には僕が決めたやり方で目標に向かうことが、自分が成長できる道だと思っています」

かねてから海外挑戦を口にしていたものの、その覚悟を決め、現実に向き合ったのが『今』だった。日本の大学に進みながらも、海外への道を切り拓くことにチャレンジするのが、馬場雄大の決めた道だ。なかなか帰国できない渡邊や八村と比べ、現時点であえて利点があるとするならば、東京五輪へと続く日本代表の合宿や試合に参戦できることだろう。だからキッパリと言う。「今は2月にあるイラン戦のメンバーに選ばれて、アジアの国を倒す経験がしたいです」。初の日の丸に向けて、海外進出に向けて、21歳の期待の星はスキルアップに励む毎日を過ごしている。