文・写真=小永吉陽子

1回戦で最大の注目を集めたビッグマッチ、明成vs尽誠学園

強豪同士の激突が大会初日に訪れた。明成はウインターカップ3連覇中のディフェンディングチャンピオン。尽誠も2度の決勝進出経験を持つ名門校。毎年、鍛え上げられたチームワークで観る者を惹きつけるカラーも共通している。そして、日本の将来を期待されているジョージ・ワシントン大の渡邊雄太(尽誠学園)とゴンザガ大の八村塁(明成)の母校ということもあり、多くの注目を集めたカードだ。

だが注目される一方で、お互いにインターハイでは2回戦で姿を消し、なかなか浮上できない1年を送っていた。現状は王者でもなければ、過去の実績など関係ないチャレンジャー。最後の大会に懸ける者同士の対戦は、積極性で上回った尽誠学園に軍配が上がった。

38-38と互角の展開から後半に突破口を開いたのは尽誠学園だった。明成は前半から仕掛けてくる松本雅樹と上田隼輔らガード陣のドライブに手こずってファウルトラブルに陥り、さらにはゾーンを崩せずにシュートセレクションの悪さを露呈してしまう。

後手に回った明成だが、第4クォーター開始から庄司勇人と田中裕也が連続3ポイントシュートを決め、2点差まで迫る逆転の機会もあった。しかし、反撃のきっかけをつかんだところで焦りからミスを連発して自滅。68-81――負けるべくして負けた敗戦だった。

八村塁は言った。「僕たちは簡単に勝ってきたわけではない」

4連覇のプレッシャーが重くのしかかっていたのだろうか――。この質問に対して佐藤久夫コーチは「それはありません」と答えている。周囲は3連覇後のチームという目でこの1年間を追っていたが、実際のチーム作りはそうではなかった。3連覇からガラリと代替わりをした今年はキャリアのない選手が多く、「練習でやってきたことを一つひとつ表現して、自分たちの良さを出して伸ばしていこう。その先に一戦一戦の勝利がある」(佐藤コーチ)。これが昨年の優勝カップをすべて返還した今年の明成の目標だった。しかし、全国大会の本番で練習の成果は出し切れなかった。

「なぜ今年のチームが力を出し切れなかったかと考えると、湧き出てくる自信がなかったことが原因。この課題を練習で払拭できず、ここまでのチームしか作れなかった私の責任です」と佐藤コーチ。

対して尽誠学園の色摩拓也コーチは「ウチか明成か、どちらがゲーム中に自立するかだと思っていました」と言い、自分たちの強みであるドライブを何度もトライし、リバウンドが取れなければ、チップで叩いてフロアに落ちたボールを奪いにいった。ルーズボールは、これまで観る者を魅了してきた両校が一番大切にしているプレー。この積極性の差が勝敗わけたのだ。

3連覇を遂げたエース、八村塁は卒業する時に下級生にこう言っていた。「僕らは簡単に勝ってきたわけではない。2年生(現3年生)はそこに気付いて練習してほしい」

昨年までの明成は八村塁という絶対的エースの存在感は強かったが、全員が役割を果たすチームだった。足立翔(中央大)や増子優騎(玉川大)を筆頭に、リバウンドやルーズボールに跳びついてはチームの士気を高め合い、どこよりも球際の強さを発揮していた。

2年生だけでウインターカップを制した一昨年。決勝の福岡大学附属大濠戦で明成が逆転にこぎつけたプレーを振り返れば、そこにはボールへの執念があった。大濠の牧隼利がダンクに行こうとしたところを八村が渾身のブロック。自らが叩いたブロックのこぼれ球を追ってモノにしたのも八村自身。そして一度はゴールを狙うもののノーマークの仲間を見つけるとアシストを送り、そのシュートがリングに弾かれたのを八村がリバウンドに行き、タップシュートで決勝点をねじこんだ。

この間、ボールを支配したのは明成だった。また、シューターの三上侑希(中央大)が入らない時でも、信じ合い、励まし合ってパスを回す信頼関係があった。色摩コーチが言うように、「ゲーム中に自立」したからこそ、2年生軍団でもつかめた勝利だったのだ。

選手、指導者ともに『自分たちらしさ』を求めるチームへ

佐藤コーチは新チームに向けて言う。「今年は明成らしさというものが欠けていました。ルーズボールで負けたり、身体を張ったりするバスケがどこかに行ってしまったので、それを戻さないといけない」

そしてその言葉は、選手だけでなく、自身の指導に対しても向けられていた。

試合後はふながいなさから涙もこぼれてこなかった選手たちだが、佐藤コーチとのミーティングが終わると号泣に変わっていた。聞けば「自分たちがダメで負けたのに、先生は『3年生は頑張った』と言ってくれました」と、この試合で24得点をマークした庄司は目を真っ赤に腫らしていた。

選手たちが持っている力を本番で出し切れないのには、指導する側にも問題があるというのが指揮官の弁だ。勝ち続けることはそれだけ難しい。

「やるべきところで積極性を出す人間性を育てることと同時に、球際の競り合いで負けたことを気持ちの問題だけで片づけるのではなく、ハンドリングや身体の使い方から、技術指導をして育てていかなければならない」(佐藤コーチ)

ボールへの執念の大切さを改めて気づかされた尽誠学園戦。この敗戦を意味あるものにするためにも、『明成らしさ』を求めることから新チームはスタートを切る。