レイカーズ

『フロントがボーゲルを信任しなかったこと』が問題の発端に

レイカーズは開幕から3カ月が経過した今もチームとしての形が見えてこない。勝てていないことよりも、そちらの方が問題だ。

健康安全プロトコル入りする選手が続出する状況で、どのチームも多かれ少なかれ同じだが、メンバーを固定して戦うことができない。ここまでの46試合、レイカーズで最も多くの先発出場を果たしているのはここまで全試合でスタートを務めるラッセル・ウェストブルック。しかし、それに続くのはレブロン・ジェームズの34試合、エイドリー・ブラッドリーの33試合、アンソニー・デイビスが27試合で、あとは20試合以下だ。先発に限らなくても開幕から3カ月を通して稼働しているのはラス(ウェストブルック)とカーメロ・アンソニー、マリーク・モンク、ブラッドリーの4人だけ(38試合以上に出場)。ローテーションは常に日替わりで、間もなくデイビスが復帰できそうだが、そうなればローテーションを固める作業はまたイチからやり直しだ。

再建中のチームは多くの選手を試すものだが、レイカーズもそれと変わらぬ状況にある。本来は『本番』であるプレーオフに向けて、それぞれの選手の能力を見極め、組み合わせを試し、どんなローテーションでどんな戦術的な選択肢があるかを積み重ねていくものだが、レイカーズはいまだその初期段階にある。誰が何分起用されるか分からないのでは、ケミストリーは生まれようもない。ラスのターンオーバーの多さが指摘されているが、パスが合わないのは受け手の問題もある。互いのプレーを理解しないまま、ラスが劣勢を打開しようと勝負のパスを出していれば、ターンオーバーが増えるのは当然だ。

チャールズ・バークレーは自身が出演する『NBA on TNT』で、フランク・ボーゲルを解任して事態の収拾を図ろうとするレイカーズのフロントを強い口調で非難した。メンバーが固定できないのは編成の問題で、現場の指揮官にできることは多くない。バークレーはそれを指摘したのだ。

昨年オフ、レイカーズが決めた方針は『ウェストブルックにオールインする』だった。レブロンとデイビスの負担が大きすぎて連覇を逃した昨シーズンの反省から、彼らに並ぶタレントとしてラスを獲得して『ビッグ3』を結成した。しかし、その代償はカイル・クーズマにケンテイビアス・コルドウェル・ポープ、モントレズ・ハレルの放出で、選手層は薄くなった。『ビッグ3』はサラリーキャップを圧迫する。さらに使える若手がいない状況ではベテランミニマムで選手を集めるしかなく、「年寄りばかり」と揶揄されるチームができた。

この状況でレブロンもデイビスも戦線離脱しているのだから、日替わりで異なるユニットがコートに立つのは致し方ない。バークレーはスタンリー・ジョンソンを「ちょっと前までストリートでプレーしていた選手」と揶揄したが、それが誰であれデイビスのポジションを埋めることを要求されては、納得できるパフォーマンスを見せるのは難しい。

編成にはさらなるミスもある。ラスを主力に据える以上、ペイントエリアに古典的なセンター、つまり運動量とスキルのないビッグマンを置いてもスペースを潰し合うだけ。それでもフロントはドワイト・ハワードとディアンドレ・ジョーダンを連れてきた。これは最初から機能しないことが予見できた。さらなる失敗は、唯一残した生え抜きのユーティリティプレーヤーをアレックス・カルーソではなくテイレン・ホートン・タッカーにしたこと。レブロンと相性が良かったカルーソはブルズで大活躍し、レイカーズファンにため息をつかせている。この失敗はあくまで結果論だが、カルーソではなくホートン・タッカーを選んだ理由が実力やプレースタイルではなく、レブロンやデイビスと同じリッチ・ポールが代理人だから、だとしたら馬鹿げた判断としか言いようがない。

ラス獲得は、トレードが決まった時点では理にかなった判断だと思われた。クーズマやカルーソといったロールプレーヤーがいくらいてもレブロンとデイビスの負担は軽減できないことがレイカーズの課題であり、攻守にエネルギー満点のプレーを見せ、長丁場のシーズンをフル回転して戦うスタミナがあり、レブロンとデイビスと並んでも物怖じせず、しかもポジションと役割の重ならないラスは最適な補強だった。

つまり、問題はラスにあるわけではなく、フランク・ボーゲルの采配にあるわけでもない。トレードデッドラインを前に噛み合わないロールプレーヤーを入れ替え、あとはケガ人が(つまりデイビスが)戻るのを待てば、レイカーズは機能し始めるはずだ。

もう一つ大事なのは、フロントが現場の指揮官への信頼をあらためて示すことだ。2シーズン前にレイカーズをNBA優勝に導いたボーゲルに対し、フロントは昨夏に1シーズンの契約延長しか認めなかった。さらに『ディフェンスのチーム』を作ろうとするボーゲルにフロントが与えた戦力は、明らかにディフェンス特化型のチームには向いていない選手がいる。

そのボーゲルは今、『あと一つ負けたら解任』という立場に立たされている。優勝したシーズンはもちろん、昨シーズンも手堅く守るディフェンスのチームだったレイカーズの姿は消えてしまった。今の成績低迷の責任はボーゲルにはないが、「信頼できない」とフロントが見なすのであれば早く交代すべきだし、そこまで踏み切れないのであれば自分たちのヘッドコーチを信頼し、もっと寄り添うべきだ。これは深読みしすぎかもしれないが、今シーズンに入ってからのレブロンのコメントからは、ボーゲルに対する信頼が感じられない。

テコ入れに成功したとしても、ライバルから数カ月遅れでチーム作りをスタートさせるようなもので、今後も厳しい戦いが続くだろうし、昨シーズンに続いてプレーイン・トーナメントに回る可能性も十分にある。だが、チームが抱える本質的な問題を見て見ぬふりをしていては、また早期敗退の憂き目を見るのは間違いない。チーム立て直しの大きなきっかけとなるトレードデッドラインで、レイカーズは正しい方向への軌道修正ができるだろうか?