文=小永吉陽子 写真=野口岳彦

「Wリーグでの活躍がなければ4年後なんてありません」

JX-ENEOSとの開幕戦で17得点。敗れはしたが、印象的な活躍をした長岡萌映子を記者が取り囲んだ。リオ五輪の感想および、4年後のことを聞かれた長岡は、「オリンピックでは貴重な経験ができましたが、試合に出られなくて、それ以上に悔しい思いが強かった。だから私は4年後というより今シーズンです。Wリーグでの活躍がなければ4年後なんてありません」と自分に言い聞かせるように答えていた。

リオ五輪を通して、宮澤夕貴がシューターになるという覚悟を決めたのならば、長岡の場合は、自分自身を見つめ直した『原点回帰』の大会になったのではないだろうか。

リオ五輪の初戦、ベラルーシ戦では終盤に値千金の3ポイントシュートを決めたが、その後の試合ではなかなかチャンスを生かせなかった。平均7.9分出場、1.2得点。中と外、どっちづかずのプレーには迷いが見え、期待されたほどプレータイムは伸びなかった。

長岡はU-16時代から点取り屋として将来を期待されていた存在だ。札幌山の手高3年時に初の日本代表入りを果たした時、日本代表の中川文一HC(現トヨタ紡織HC)は「将来性を買ってフォワードにしたい」と長岡を4番(パワーフォワード)から3番にコンバート。最年少だったこともあって、長岡は自由にプレーし、オールラウンダーの資質を見せた。

だが、富士通に入団してからは4番に定着。シーズンオフにはケガにも悩まされ、一時は日本代表から離れた。ゆえに、今年代表に復帰して3番としてのプレーを求められた時、思い切りの良さが影を潜めてしまったのだ。「3番だと外から攻めなくてはという気持ちがありすぎて、綺麗に、綺麗にプレーするようになっていました。そして富士通では4番に戻るので、もっと3番らしいことをしないと代表で使ってもらえないのでは、と悩むこともありました」

ここ数年、日本代表では3番、富士通では4番。ポジションを行ったり来たりのジレンマが長岡の歩みを止めていたのだ。

自分に足りないことを客観的に見つめたリオ五輪

しかし、だ。フォワードがインサイドプレーを得意としてはいけないという決まりはない。長岡の良さは体の強さ。傍から見れば、もっと当たりの強いプレーでアピールしてもいいと思うのだが、自信をなくして日本代表で試合に出られないことが葛藤を生む悪循環になっていたのだ。

リオではベンチで悔しさを募らせたていた長岡だが、相手国を見渡せば、様々なタイプのフォワードがいた。それこそ、アメリカの得点源であるマヤ・ムーアは183cm。自分とサイズが変わらないアメリカの3番を見て、強豪相手でも身長的に張り合えることを確信した。「自分が力強いプレーでファウルを誘えれば、日本はもっと強くなるんじゃないか……」。

リオ五輪は自分に足りないことを客観的に見つめる時間だった。Wリーグの開幕戦を終えて長岡はこう言った。

「日本には栗原さんや近藤(楓)さんのように、3ポイントが得意な選手はたくさんいます。でも私のように力強いドライブやリバウンドだったり、3ポイントを狙ったりできるフォワードはいない。オリンピックで世界の選手たちを見て、外のシュートだけじゃない3番になればいいんだと思って帰ってきました。ようやく、外ばかりにこだわらないことにたどりついたというか」

そう一気に話した後、やはり気になるライバルの存在をチラリと口にした。「3ポイントをバンバン決めたアース(宮澤)の活躍は刺激になるけど、それはそれ。自分は自分らしくやるしかない」

宮澤が目指す大型シューターでも、長岡が目指す力強いオールラウンダーでも、持ち味が出ていれば、それが日本らしいフォワードのスタイルになる。2人が試合に出られなかったのは、勝手に『理想的な3番像』を求めすぎていたがゆえの迷い。葛藤のある者がコートで勝負できるはずがなかった。そして何よりも3番として出るならば、今後は外周りのディフェンス力をつけることが課題になる。

今シーズン、2人が問われるのは、自分らしさという軸を持ち続け、自信を持って戦えるかどうか。その先にチームの勝利があり、日本代表の3番ポジションがある。